‘14年夢日記 「『掲示板』を読む」

2014(H26)年8月17日(日) 曇り時々雨

   タイトル 「『掲示板』を読む」

 この短編小説は、「民主文学」9月号に掲載された、里村徹の作品である。彼は作品の末尾に、作者紹介が出ているので「民主文学」初登場の新人である。新人と言っても、1938年生まれなので今年76歳だ。文学をやるのに年齢は関係ない。この作品も内容、文章とも若々しくて、「いい仕事をしたなァ」という思いである。

 この作品は、この時代の諸相を鋭く切り取っており、今日的テーマに迫っている。掲示板というのは、日本共産党の掲示板のことである。主人公の相生(あいおい)進は、自宅の家の壁に掲示板を設置し、ポスターや写真ニュースを貼っている。ところが、二男の純二が正月に帰省してきて、「親父、あの掲示板そろそろ外してもいいのやないか」といったのである。

 進は、掲示板を設置してもう5年になる。それを、いま何故外さなければならないのか、という疑念をもった。しかしそれは、純二の仕事と大きく関係していた。彼は三星重工業の関連会社に勤めている。三星重工業は、武器もつくっている会社である。その三星からの指示があって、社員の適正評価調査が強まるということだ。

 それは、特定秘密保護法の影響であるらしい。この法律が施行されたら、社員の身辺の思想調査まで行われる、と純二はいうのである。それで、掲示板の撤去を進に打診してきたのだ。「親父のやってきたことが間違っているとは思っていない。でも、俺ら子どもはずいぶんいやな目にもあってきた。だから、今度は子どもの言うことを聞いて欲しい」という、純二の思いであった。

 進は、県立高校の工業科の教師を37年間勤めてきた。正月にその同窓会に招かれた。二次会の席で、自衛隊に勤める青木正一の話が出た。自衛隊はいま隊員に身上明細書を出させている、とのことである。交友関係の調査欄もあって、高校時代の友人のところに、地元の自動車販売会社に勤める川出の名前を書いたと言った。

 「さっき、俺の席に青木が来て、思いつめたような顔で、そやからお前、変なことに染まるなよ」と、川出は青木から言われた。また、この地域の「九条の会」が開かれ、その事務局長の新藤が次のように発言した。「うちの息子は国家公務員です。この法律が施行されると、国の秘密と特定された事柄を国家公務員が漏らすと逮捕・起訴されます」

 そして、息子は「お父さん、僕に変なことを聞くなよ、もし自分が秘密事項をしゃべると、大変なことになる、家族にだって駄目だからね」と、言うのだった。一方、純二は、4月から新しい部署に替わったということだった。戦車部門から自動車部品の製造部門になったのだ。が、彼は管理職を外されてしまった。しかし、妻の増美は、純二は「意外なくらいサバサバしていたわ」と言った。

 しばらくして、純二が夜、家に寄った。進が彼の気持ちを聞いてみたいと思ったから、誘ったのだった。「俺もよく考えたよ。戦車でなく自動車づくりに関わることが俺には一番向いていると気がついたんや。そう思うと管理職のことはどうでもよくなったよ。二月の終りに信頼している上司に申し出てようやく認めてもらった」、「まあ、自分本位なことで、小さな抵抗かもしれんけど、それが俺の選んだ道だよ」と、純二は言った。

 この小説は、政治小説の趣があるかもしれないが、しかし、現代という時代の在りようを真っ直ぐにみつめて、ひとつの文学世界を構築している。秘密保護法や集団的自衛権行使の問題が、一人ひとりの人間に影を落としているようすを、掬い上げて書いている。また、一人の人間の生き方として、純二の選び取った道は読者に爽やかな風を感じさせるものである。



スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

FC2USER634322BTA

Author:FC2USER634322BTA
FC2ブログへようこそ!

 1947年生まれの70歳で、
 日々の暮らし・想いを自由に 綴って
 ゆきたいと思います。
 住所は岡山県浅口市寄島町です。
 青い海と緑の山、青い空をもつ素敵な村です。
 名前は「千春」ですが、男性です。

♪♪♪リンクは、ご自由に!

最新記事
月別アーカイブ
カテゴリ
リンク
カウンター