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掌編小説 「掌編小説 『朝日のあたる家』 (1)」

2014(H26)年4月5日(土) 曇り時々雨

   タイトル 「掌編小説 『朝日のあたる家』(1)」

 門の前で立ち止まって、民生委員の桐山は北村の家を見上げた。もう九時は過ぎていたが、南東の二階の部屋のカーテンは閉じられたままである。その部屋へ春の柔らかい陽が降り注いでいた。

 ハナミズキが、門の脇で純白の花弁を開いている。枝を張って、二階の部屋から手を伸ばせば届きそうである。ハナミズキが香りのいい匂いを放って、桐山を包み込んできた。

 開き戸を押して桐山は門の中に入り、玄関のインターホンを鳴らした。中から女の人の声がして、玄関のドアが開いた。顔を覗けたのは、主婦の芙由子である。
「おはようございます。ああ、済みません」
 芙由子は、爽やかな声を挙げた。

「どうぞ中にお入り下さい」
 芙由子はドアを大きく開いた。
「おはようございます。それじゃ、失礼します」
 桐山は腰を折って玄関に入った。

「どうぞお上がり下さい」
 芙由子は応接間に桐山を案内した。
「どうぞ、お掛けになって待っていて下さい。ちょっと奥へ……」
 彼女はそそくさと、応接間を出ていった。

 桐山はソファーに座って、応接間を見るともなしに見渡した。すると、西側の壁紙が茶褐色に染まり、しぶきを上げたようになっているのが眼に留まった。その壁は、何かがぶつかったように、へこんでいた。

 芙由子が戻ってきて、コーヒーカップを桐山のテーブルにおいた。芙由子は紅茶だった。
「それで弥生さんは、どうなんですか」
 スプーンでコーヒーを掻き混ぜながら、桐山は訊いた。

「手の打ちようがなくて困っています。昼と夜の生活が逆転してしまっていますからね。まだ、眠ってるんですよ」
 芙由子は、二階を見上げるような仕草をした。
「だから、あかずのカーテンなんですよ。もう、そろそろ一年になります。」
 芙由子は嘆息を洩らして、肩を落とした。

「それじゃ、夜は何をしているんですか」
 桐山は首をかしげた。
「それがよく分からないんですが、たぶんインターネットやゲームをしているようですね」
 芙由子は、紅茶のカップに口をつけた。

「弥生さんは、M自動車工業へお勤めでしたね」
「ええ、弥生は自動車部品製造工場に、派遣として勤めていました」
 芙由子は身体を抱くようにして、両腕を膝の上に載せた。

「それが大変だったんですよ。北村弥生という、れっきとした名前があるのに、帽子に付けた番号で呼ばれるんですからね」
 芙由子は、いくぶん身体を乗り出して言った。

「十三番、何をとろとろしとんじゃ。お前んところで部品が、たまっとるぞ。早うしろ。弥生はそんなふうに、怒鳴られてばかりいたそうなんです」
 芙由子は、桐山の顔を覗き込んできた。

「弥生さんが、十三番ねえ。それじゃ、人材じゃないですね。まさに、モノ扱いですよ」
 桐山は腕を組んで、うーんと唸った。
「昼食の時だって、派遣社員は食堂で食べさせてもらえないんですからねえ。工場の床にダンボールを敷いて、食べていたそうですよ」
 芙由子は、紅茶のカップに手を伸ばした。

「桐山さん、パワハラというんですか。派遣の担当者から、うすのろとか莫迦とか、しょっちゅうなんだそうですよ」
 芙由子の紅茶のカップが震えていた。
「それで、弥生は眼をうるませて帰ってきて、もう、明日から行かない、と言ったんですよ。それからですね。二階の部屋に引きこもってしまったのは……」
 芙由子は、また二階を見上げるような格好をした。

                                    <つづく>



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Author:FC2USER634322BTA
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 1947年生まれの68歳で、
「新日本歌人協会」の会員です。
 短歌創作を通じて、平和と民主主義をめざしています。
 住所は岡山県浅口市寄島町です。
 青い海と緑の山、青い空をもつ素敵な村です。
 名前は「千春」ですが、男性です。

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